2019/02/02 18:13

今日は楽屋裏のお話です。

あのアマゾンが書籍の買い切りを検討しているというニュースが流れました。
驚いといえば驚きですが、来るべき時が来たといえばいえそうです。

その記事を転載してみます。

アマゾン書籍買い切り方式へ 年内に試行、値下げ販売も検討

2/1(金) 0:00配信

毎日新聞

 ネット通販大手のアマゾンジャパンは31日、出版社から書籍を直接購入し、販売する「買い切り」方式を年内にも試験的に始めると発表した。同社は同日の記者会見で、「書籍の返品率を下げるため」と説明し、本の価格設定についても検討する考えを示した。

 同社によると、買い切る書籍について出版社と協議して決定。一定期間は出版社が設定した価格で販売するが、売れ残った場合は出版社と協議して値下げ販売などを検討するという。

 本の流通は再販制度の下、出版社が価格を決めて取次店に卸し、取次店が書店に卸す方式が一般的になっている。書店は返品できる代わりに、出版社や取次店側からの条件を受け入れてきたが、高い返品率が問題となっていた。それだけに今回の同社の「買い切り」方式導入は、出版業界に大きな影響を与える可能性がある。

 出版業界に詳しいフリーライターの永江朗さんは「出版社と書店との力関係が大きく変わるのではないか。電子書籍同様、本の値引きが進む可能性もある」と話している。【山口敦雄】


これは一大事。
そして吉報です。

これまで文工舎でも、何度かアマゾンの現行システムでは煮え湯を飲まされたことがありました。

「これは売れそうだ」とアマゾンが見立てた商品には大量の発注がきます。
たとえば「マツダ商店(広島東洋カープ)はなぜ赤字にならないのか?」は、毎回どっさりと注文が来てすぐに在庫がなくなってしまい、あわてて増刷しました。

その間にも発注はどんどん来ていたのですが、「増刷でき」となって納品可能になってもそれが何週間も反映されず、その間にキャンセルが相次いだらしく、再発注がきた時には部数は激減していました。
つまり売り時を逸してしまったというわけです。



おかげさまで地元広島の書店ではずっとランキング1位の売れ行きでしたので事なきを得ましたが、あの時はアマゾンのやり口には憤ったものでした。
同様の事経験した版元は少なくないようです。それも中小の出版社では。

また、「カープ開幕スタメン名鑑」などは、アマゾンが好意的に見積もってくれたせいで見込み以上の発注をいただいたので、こちらもすぐにその部数分の増刷をかけたのですが、後からとっさりと返品されてきました。



これが買い切りだったら発注分は買い取ってもらえたわけで、あの悲惨を経験する事はありませんでした。
ので、今回のアマゾンの改革は、望むところでもあります。

とはいえ両手を上げて賛同できるかといえば、そうとも言えないのが正直なところ。
売れ残ったら廉価で売るというのですから、もともとシブい掛け率がさらに落とされるのは明らかです。

これが現実となれば「売れそうな本」と「売れそうもない本」との差別化は、ますます顕著になる事でしょう。
売れそうな書籍に関しては大量に仕入れて、ネットでより売れるような仕掛けをする。
一方で「売れそうもない書籍」はワリを食うことになります。
極端なことをいえば、「売れそうもない書籍は扱わない」という事態だって想定できます。

売れる本と売れない本の二極化がさらに進むことになる。
ネット販売の特徴がさらに先鋭化することになりそうです。

書店さんは委託販売であるために、売れるかどうかわからない商品でも(ある程度)棚に並べることができるわけで、委託販売は一面では“美風”といっていい制度でしょう。
それが買い切りとなると、必然的に「売れそうもないものは扱えない」ということになり兼ねません。

世に新規に出版される書籍をアマゾンが扱わない。
そんな事態はアマゾンの名誉にかけて回避することでしょうが、ベクトルがそちらに向かうことは否定できません。
買い切りが一般書店にも波及する事になれば、それは現実のものとなるでしょう。

版元にとっていいのか悪いのか。
読者にとっても、マニアックな本などは手に入れ難くなるかもしれませんし。
今回のアマゾンの取り組みは微妙な問題をはらんでいます。

でも一番の問題は、そうしたシステムの“改善”がほぼアマゾンの意向だけで一方的に決められてしまうことでしょう。
一強の弊害は政治の世界だけではありません。