2018/12/21 10:58

本の雑誌 1995 4月号より

平成の御世も残りあとわずか。
その6年目の4月1日、エープリルフールに堀 治喜著「時代の気分はもう二日酔い」を刊行してから、約20タイトルの書籍を刊行してきた文工舎。

野球に例えれば空振り三振した作品もあれば、でかいだけのファウル、フェンスぎりぎりのホームラン、いろいろありました。
そしてその全てがそれなりに手塩にかけたものたち。

その愛おしい作品たちの主なものをあらためて見返してみようと、「ほぼこんなもんでしょ売り上げランキング」というカタチで振り返ってみました。

1位 衣笠祥雄はなぜ監督になれないのか?(洋泉社の増補版を含めて)

「衣笠祥雄が監督になれない」こととカープの低迷には相関関係があるのではないかという仮説から構成した“禁断の書”
初版3000部が飛ぶように売れて、週3日の発注のたびにAmazonに段ボールで送っておりました
あまりの反響に文工舎では手に負えなくなって洋泉社から増補版として引き受けてもらいました
ただいま好評絶版中ということで、再刊が待たれるもののカープが黄金期を迎え、また衣笠氏が他界された今、その可能性は限りなく小さい
Amazonランキング総合221位・ノンフィクション5位となった文工舎初めてのベストセラー

 ❊なお同書を改訂した「衣笠祥雄はなぜ監督になれなかったのか?」は
  NOTEで読むことができすます → https://note.mu/suitonrou/n/nc100dad6508d

2位 マツダ商店(広島東洋カープ)はなぜ赤字にならないのか? 
前掲書の続編
カープ球団は本当に貧乏なのか?
市民球団なのか個人商店なのか?
こんな素朴な疑問からカープを見直してみたのが本書。一部では「パンドラの匣を開けてしまった書」と話題になりました
初版5000部があっという間にさばけて「たちまち増刷」したものの、増刷しすぎてまだ在庫があるという出版界ではよくあるパターン
巷ではロングセラーとなっていたこの本を書店で埋もれさせるために「カープ公認本」が一気に増えたとの噂も
Amazonランキング総合22位・ノンフィクション4位
   
3位 カープ猛者列伝(私家版)
カープ球団創立50周年に合わせて歴代OB50人をピックアップして紹介
この企画がウケたのか球団が初めて公認をした“カープ本”
球団サイドからも販売してもらえることになっていたものの、同様の本を出すということで球団とは蜜月関係の地元新聞社から横槍が入ったために約束が反故にされたという、オマケ付きならぬイワク付き
元々の版元が撤退したため文工舎から「私家版」として販売
  
4位 わしらのフィールド・オブ・ドリームス
文工舎お抱えの作家』堀治喜のメジャーデビュー作(メディアファクトリーから刊行)
映画「フィールド・オブ・ドリームス」(1990年代初めに公開)に感化されて「本当に野球場をつくってしまったおかしな仲間たち」のお話は面白がられて、本家アメリカのワシントンポストにも紹介されるなどメディアでも話題になったため、版元も著者も関係者もベストセラーを疑わなかったが、ポテンヒットに終わった
「そのうち時代が追いつくだろう」との目論見から、大幅に手直しして文工舎から新書版として再刊となったが、時代が追いつくのはもう少し先になりそうです

5位 天国から来たストッパー!
没後20周年に津田恒美が蘇って、黒田博樹と新井貴浩が復帰した衣笠祥雄監督のカープを日本一に導くという、漫画のようにストレートなファンタジー
この作品が発表されたのちに現実に黒田・新井の両選手がカープに復帰してリーグ優勝をしたため、一部のカルトファンからは「予言の書」とも
衣笠さんも他界された今となっては、活字でしか実現できない夢が本書に具現化した

6位 全身野球魂 長谷川良平
2006年夏、カープの初代エースだった長谷川良平氏が没した
その葬儀が終わってから、著者は長谷川の野球人生を遡るように彼の生地愛知県の半田へと向かった…
そこで知ったのは、半田商工から幾つかの実業団チームを経たのち、運命の糸に手繰り寄せられるように広島のカープに入団した奇縁
これがなければカープの歴史は数年で終わっていたことを思うと、あらためて「小さな大投手・長谷川良平」の活躍が際立ってくる

7位 カープ開幕スタメン名鑑
世に「選手名鑑」は数々あれど、それは全球団のその年だけの名鑑
その常識を覆して1球団の歴代開幕スタメンだけにフォーカスしたのがこの名鑑シリーズです
開幕スタメンのみに絞ったことで、主力選手の変遷から球団史が概観できるという新機軸の企画モノ
現在の所広島東洋カープと横浜DeNAベイスターズの2チームを刊行。全球団が揃うのはいつのことやら

8位 球場巡礼第1集
とある方の小冊子の体裁が気に入って(薄いテキスト様でも商品になるという)、そのままのスタイルをお借りして発行
中綴じのため書店での居場所がなく苦戦するものの、なぜか編集者や好事家から支持されて「プロにウケのいい本は売れない」(文工舎の舎訓)の例のひとつに

9位 球場巡礼第2集
製本にバラツキがあって、時どき返品があったのに嫌気がさしてアマゾンでの販売を停止
そのせいか現在(2018.12.20)アマゾンの中古で20957円の値がつくという異常事態に

10位 GROUND ZERO 希望の神話 
まだネット協賛や募金・寄付が一般的になる前に、思いのある方(モデルとして登場されてます)からアナログ協賛していただいて制作した写真集
「ヒロシマ・ナガサキ」がテーマのこの本のように社会的な性格ものにとどまらず、ネットで呼びかけられる現在では、こんな出版形態はますます増えていきそうです